法案のどこが問題なのか分からない

人権擁護法案、13日に議論再開 反対派が巻き返しへ

自民党で賛否を二分している人権擁護法案の今国会提出に向け、党人権調査会(会長・太田誠一総務庁長官)は13日、今年初の会合を開く。福田政権では古賀誠選対委員長や二階俊博総務会長ら推進派が党の要職を占めており、ジワジワと包囲網を構築。危機感を募らせた反対派の中川昭一政調会長らは「真・保守政策研究会」を中心に法案反対を呼びかけるなど巻き返しに懸命だ。両派の妥協点を見つけることは困難なだけに対立が激化すれば政権を揺るがす事態も招きかねない。

「なんとか穏便に進める手だてはないのか」

太田氏は5日午後、反対派の古屋圭司衆院議員らとひそかに会い、協力を呼びかけたが、古屋氏らは(1)人権侵害の定義があいまい(2)人権委員会の権限があまりに強大(3)加害者の保護が十分でない−など法案の問題点を指摘した上で「人権救済には別の手だてを講じるべきだ」と主張し、協議は平行線をたどった。

推進派は「今国会が法案成立のラストチャンス」(党幹部)とみており、人権問題調査会を今後2、3回開いた上で3月にも総務会で党の了承を取り付けたい考え。公明党は法案に概ね賛成している上、民主、社民両党などにも賛成派が多いだけに「国会に提出してしまえば何とかなる」(推進派中堅)との読みもあるようだ。

その一方、推進派は今年に入り、若手・中堅を個別に呼び出し、説得工作を続行。党4役で法案に慎重なのは伊吹氏しかいないこともあり、若手からは「本音は反対でも次の選挙を考えると党執行部に逆らえない」と悲鳴が漏れる。「4月内閣改造説」が浮上していることも「閣僚ポスト待ち」の中堅以上に重しとなっている。

危機感を強めた中川氏は15日に「真・保守政策研究会」を開き、法案の問題点を徹底検証する構えだ。中川氏は「法案の根幹に問題が多い」と考えており、推進派が多少の修正案を示しても応じることはなさそうだ。

平沼赳夫経産相(無所属)が会長を務め、休眠状態となっていた反対派議連「真の人権擁護を考える会」も活動再開に向けて動き出した。新会長には島村宜伸元文相が内定しており、1回生議員有志の議連「伝統と創造の会」(稲田朋美会長)や言論界とも連携し、反対キャンペーンを繰り広げる方針だ。

反対派は、平沼氏をパイプ役として民主党の反対派との連携も模索している。反対派の安倍晋三前首相や麻生太郎前幹事長の動き次第では、法案が政界再編に向けた動きを加速させる可能性もある。

人権擁護法案は平成14年に国会提出されたが、野党などの反対で廃案となった。17年に古賀氏らが再度国会提出を目指したが、平沼氏らの強硬な反対により頓挫した。

(2008年2月12日 産経新聞)

法案によって「表現の自由が侵される」という意見をよく目にするのですが、法案や自民党法務部会の議論を見た限りではその心配はないんじゃないかと思います。確かに第二条にある「人権侵害」の定義は「この法律において『人権侵害』とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう」と曖昧なものです。しかし、第三条を見てみますと、この法案で禁止される「人権侵害」がどのようなものであるかが分かります。

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。

  次に掲げる不当な差別的取扱い

   国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

   業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

   事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)

  次に掲げる不当な差別的言動等

   特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動

   特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動

  特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待

 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

  人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為

  人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為

法案によって「表現の自由が侵される」というような主張を行う人達がその根拠として挙げることが多いのが、第三条第二項(イ)の「特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動」だと思います。「特定の者に対し」て行われる、「その者の有する人種等の属性を理由」とする「侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動」をしてはならないと書いてありますので、「人種等」が何なのかを見てみたいと思います。

第二条 この法律において「人権侵害」とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。
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 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。